渓谷のただ中 至福の岩風呂
国道48号線で仙台から広瀬川をさかのぼること約50分。あるいは、線路付近まで樹木が迫る仙山線で約30分。1200年前に発見されたという古湯、作並温泉は山々に囲まれて静かなたたずまいを見せている。
源泉は広瀬川の川床。旅館ごとに様々に趣向を凝らした露天風呂が楽しめる。長い階段を下りていくと、川のせせらぎと人がたてる湯の音がしだいに大きくなって、いやがうえにも期待が高まる。
天然の岩風呂は、ちょっと手を伸ばせば川の流れにふれることができそう。美しい渓谷のまっただ中で、川と一体になった気分を味わいながら、しだいに身体があたたまってゆくというのは、なんとも不思議な感覚だ。
泉質は、含食塩芒硝(ぼうしょう)泉。神経痛、関節痛、冷え性などの他に、肥満解消の四文字が気持ちをワクワクさせる。スリムになろうとつい頑張りすぎないように。でも、川の流れが巻き上げるひんやりした空気が頬(ほお)に心地よくて、長く浸(つ)かっていてものぼせないのがうれしい。
お湯の中から奥深い自然と四季が楽しめる作並温泉は、春夏秋冬それぞれの表情があって、全季節制覇したくなるが、ゴージャスな気分になる紅葉の秋と、湯気の向こうの雪景色に思わず歓声があがる冬は格別。
日帰り入浴もできるので、ドライブの途中でちょっと渓流露天風呂もおすすめ。ただ、自然と裸のおつきあいをすると、時間も溶け出してしまうので、ちょっとのつもりがちょっとですまなくなることを覚悟しておいた方がいいかもしれない。
(吉永 みち子・ノンフィクション作家)