白鹿が見つけた伝説の湯
那須火山脈の盟主・茶臼岳(那須岳)の裾(すそ)に広がる那須高原に点在する温泉群を那須温泉郷と呼ぶ。
高原には「ボルケーノハイウェイ」の展望道路が巡り、それに沿って、那須湯本温泉をはじめ、八幡、弁天、大丸、北温泉などが点在する。かつてあった、旭、高雄などの温泉宿はなくなり、その跡地には源泉があふれ、自然に帰りつつあるので、ときおり温泉マニアたちが探索している。
那須湯本温泉の下方には、大丸温泉の源泉から湯を引いて開発された新那須温泉があって、高級旅館の間にクアハウスや小宿などがある。
那須湯本温泉は、白鹿(しか)によって発見されたとの伝説が残り、温泉神社のすぐ前に古くから湧(わ)く共同浴場「鹿の湯」がその由来を受け継いで、温泉郷の中心的存在となっている。やや白濁した高温の湯は、体の芯(しん)まで温まり、アトピー性皮膚炎をはじめ、痔瘻(じろう)、リウマチ、婦人病、糖尿病、肝臓病など「万病に効果がある」と、古くから言われている。今でも湯治客は多い。
鹿の湯の上方の谷には、白面金毛九尾のキツネの伝説が残り、賽(さい)の河原状に開けた中央に殺生石がある。亜硝酸ガスが発生している。
芭蕉は奥の細道の途中に立ち寄り、「石の香や夏草赤く露あつし」の句を詠んだ。その句碑が、供養塔や地蔵尊と一緒に立っている。
那須湯本温泉から那須野ヶ原へと高原が広がり、背後の頭上には、岩尾根を見せる那須連峰が大きく仰がれ、茶臼岳へは、腰巻きの岸壁をまたぐようにロープウエーが登っている。茶臼岳からは、噴煙が上がっていて、山稜(さんりょう)を吹き渡る風に流されていた。
(野口冬人・旅行作家)