湯治と観光、2つの顔
三徳川の両岸の温泉街を結ぶ三朝橋の欄干から左岸の川岸を望むと、「河原の露天風呂」がある。誰でも自由に入浴できる。湯街をそぞろ歩きする途中、浴衣を脱いで気ままにゆっくり入浴を楽しむこともできる。
三朝橋のたもとから商店街の続く温泉本通りを歩くと、しゃれた喫茶処(どころ)や土産物屋、木造の古い旅館、大正時代に建てられたという白壁の建物などが、古い温泉街の風情を色濃いものにしている。珍しい温泉オンドル部屋を持つ小さな湯治宿などもあり、その裏手には薬師堂が祀(まつ)られてあった。
三朝温泉は古くから湯治場として知られていたが、近年では観光面での発展もいちじるしいものがあり、湯治と観光の2つの面が混在した温泉地になっている。
温泉街入り口から1本奥側の道へ入った所に建つ斉木別館に今回の宿をとった。本館鉄筋五階建ての「緑水苑」、そこから左へ延びる「華翔苑」が7階建て、さらに庭園を囲って、木造和風の建物を並べる「さつき苑」が続き、石舞台を置いた池を中心に、背後の山を借景にした庭園が目を引いた。
大浴場は一階の奥にあって、浴場へのアプローチには、玉石が埋め込まれてある。足裏からの刺激が快い。浴槽には手すりが付き、ガラス戸を開けた外には岩風呂の露天風呂が広がっている。ラジウム含有の有数の温泉として、喘息(ぜんそく)、高血圧症、糖尿病、リウマチなどの生活習慣病に大きな効果が期待される山陰の名湯として人気だ。
(野口冬人・旅行作家)