他の旅館の風呂にも入れる
「いいお湯ですよ。入ってゆきなさいよ」
もう3日も泊まっているという奥さんが誘う。商店街の一画につくられた「シーボルトのあし湯」。洋風の赤い屋根をかけ岩を組んだ可愛(かわい)い足湯だ。
観光温泉とばかり思っていたが、滞在客がいたことに先(ま)ず驚く。カラー舗装の商店街も、予想以上に元気なようだ。それでも平成3年をピークに、入り込みは下降線をたどっている。客層も変わって団体客は激減。中高年の夫婦連れや中年の女性客グループが増えてきた。宿泊料金も1泊1万円を切るところも出てきている。
ただ、他の温泉地に比べて落ち込みがそれほど激しくないのは「嬉野温泉という全国的に知られたブランド力のお陰なのかもしれません」と、山口保・嬉野温泉旅館組合長。
「温泉は共有財産」という発想からスタートした、宿泊客を対象に他の旅館の風呂が体験できるチケット「温泉ざんまい」も小規模旅館に宿泊した客を中心に好評だ。将来の目標は各宿がニーズに合った集客のできる個性化を計り、その「集団として共存共栄してゆく道」しかない、と山口さん。既にある医療機関との提携も計って、健康管理のできる保養温泉地をも視野に入れているという。
名物の温泉豆腐の専門店も現在は数軒しかないけれど、将来は湯豆腐横丁のような街づくりを商店会と協力して考えてゆきたいという。今年10月には第2回目の豆腐フェスタも開催予定だ。
(竹村節子・旅行作家)