世界唯一の天然砂風呂
鹿児島空港からJR西鹿児島駅へ。そこからさらに指宿駅まで快速で1時間。バスなら1時間20分。世界で唯一の天然砂蒸し風呂までの道のりは長い。浴衣を借りて砂浜に立つと、水平移動したつもりが地球の中心に向かって垂直移動してきたのかと錯覚するほど砂が熱い。海水が温泉のような温かさ。マグマというか地球のエネルギーが実感できる感じ。
スコップを持ったおばさんが「どこか具合の悪いとこは?」と聞いて、その部分にあたるところはやや深めに掘ってくれる。サッサと枕ふうの段差をつけ、そこに頭を乗せて横になると、スコップであたりの砂を掛け布団のようにかけてくれる。シャリシャリという砂の音が耳もとでする。こんなに熱いのか! と思うほど、砂は熱い。まさに天然のサウナ。でも頬(ほお)をなでる風が心地よくて、サウナのように耐える感じではない。
目に入るものは南国の空。5、6分すると体中の汗腺が開いたように、汗が噴き出してくる。深く掘ったところがひときわ熱い。モゾッと動くと、空気が入るのか楽になる。
ドクッドクッと血管が波打ってくるのは、血管が開き、心臓から多くの血液が送られ始めた証拠とか。血液循環の促進と、身体内部の体温上昇が、神経痛、筋肉痛、腰痛、関節痛、疲労などを緩和してくれる。ただし、普通の温泉の3倍から4倍の効用があるだけに、がんばって長く埋まっていると後がしんどくなる。高血圧や心臓疾患、肺機能の低下した人も要注意。
自分を知る。がんばりすぎない。欲張らない。自然の力をちょっと分けていただくというスタンスの時に、砂蒸し風呂から最高の恵みがいただけるようである。
(吉永みち子・ノンフィクション作家)