原生林の紅葉に囲まれ
霧島山塊の西南麓(ろく)、天降川(あもりがわ)の上流、新川渓谷に沿って湧(わ)く妙見、安楽、新川、山之湯、塩浸(しおびたし)の温泉をまとめて「新川(しんかわ)渓谷温泉郷」と呼ぶ。
断崖(だんがい)絶壁、奇岩怪石が連続する新川の渓谷美は、周辺を覆う原生林が彩る眺めが南九州でも有数との呼び声が高く、イワツツジ、ネムノキ、モミジなどは、11月下旬から12月中旬あたりまで、見事な紅葉を楽しませてくれる。
温泉郷の中心は、牧園町と隼人町にまたがる妙見温泉で、天降川に中津川が合流する折橋の周辺に、今でも自炊滞在のできる昔ながらの湯治宿から、設備の整った観光客向けの宿までそろっている。
渓谷に面した露天風呂が楽しみな「薩摩隼人妙見ホテル」は、明治のはじめのころの創業を伝える老舗宿。川に架かる橋をはさんで、ホテル部と自炊部がある。渓谷の左岸に建つ「妙見荘田島本館」は湯治滞在専門の宿で、いつも常連さんがいっぱいである。
少し上流の木立に埋もれるように茅葺(かやぶ)きの離れ家が点在する「忘れの里雅叙苑」には、20トンもある大岩をくりぬいた露天風呂などがあり、ニワトリが庭をかけまわっているような田舎ムード満点の高級宿だ。
次の上流の安楽温泉は、打たせ湯や砂蒸し風呂などを持つ自炊専門の湯治宿が連なり、その先には、独立した存在の「ホテル華耀亭(かようてい)」が、鉄筋7階の近代的な建物を見せていたりするなど、実に変化に富む彩り豊かな温泉郷となっている。
(旅行作家・野口冬人)