竜馬とおりょうが新婚旅行
韓国(からくに)岳、新燃(しんもえ)岳、高千穂峰などの霧島山塊の山ひだに湯煙を上げる、丸尾、湯之谷、硫黄谷、林田、新湯などの各温泉を総称して霧島温泉郷といっている。
巨大ホテルと貸間スタイルの湯治宿の混在する丸尾温泉、巨木を輪切りにした臼(うす)風呂や大露天風呂のある新湯温泉、霧島随一の収容力を持つ林田温泉など、各温泉ともに特色をそれぞれ打ち出している。
硫黄谷温泉は、丸尾から霧島山稜(さんりょう)のスカイラインへ登ってゆく道の途中の硫黄谷にあって、霧島ホテルが1軒のみ。正徳4年(1714年)に発見されたという歴史のある温泉だ。霧島山塊の西南に位置する明礬(みょうばん)山、硫黄谷に湯煙の立ち込めているのを見たきこりが、谷へ下って行ってみたところ、野生の動物が、傷ついた足を湯にひたしているのを見て、温泉の存在を発見したと伝えている。
ここにのちに湯小舎を建て、湯守として入っていたのが、下って明治時代に入って霧島館の堀切武右衛門が営業するようになり、昭和の中期以降に霧島ホテルとなっている。
硫黄泉を主にした、単純硫化水素泉、炭酸鉄泉、明礬泉など、4つの源泉が1日一万石という豊富な量が混浴の大浴場にそそがれている。巨大ドームの浴舎には、打たせ湯や長寿風呂、薩摩風呂、寝湯、足型風呂、かぶり湯などが大浴場のまわりにあり、鉄幹の湯、晶子の湯の男女露天風呂もある。
幕末の頃(ころ)に坂本竜馬が新妻おりょうをともなって訪れた宿でもあり、「我が国新婚旅行第1号の湯宿です」と、渡辺英彦元総支配人が自慢していた。
(旅行作家・野口冬人)