美人の湯 名物の足踏み洗濯
湯原、湯郷温泉と合わせて、奥津温泉は古くから「美作(みまさか)三湯」の1つに数えられ、岡山を代表する名湯として知られている。約300年の昔、津山藩主・森忠政が藩湯として管理し、元禄時代には別荘などが設けられ、一般人の入湯を禁じていたという言い伝えもある。
明治時代に入ったころは、鍵湯、下湯の2か所の泉口があり、泉温は華氏で108度(摂氏約42度)だったと伝えている。『日本名勝地誌』(野崎左文著、明治28年7月、博文館刊)に見ると、「道路は峻嶺嶮阪(しゅんれいけんぱん)多く不便甚(はなは)だしく盛夏の候と雖(いえど)も四戸の浴舎悉(ことごと)く客を満たすに至らずと云(い)ふ」と、かなりの山奥の隠れた温泉であったことがうかがえるような一文がある。
奥津温泉には足踏み洗濯の風習が名物として伝えられている。河原の露天風呂で、カスリの着物に赤い蹴出(けだ)し、姉さんかぶりの女性たちが洗濯ものを足で踏んで洗う風景は「洗濯ダンス」などと呼ばれる。昔は日常的に行われていた。現在は町の観光協会が保存をかねて、休日にショーとして朝8時30分から奥津小唄に合わせて15分ぐらい行っている。
奥津温泉というと美肌の湯、美人の湯の代表格に挙げられる。アルカリ性単純温泉であり、美肌作用の効果がうたわれる。
藤原審爾(しんじ)の名作『秋津温泉』の舞台に取り上げられ、昭和37年には、岡田茉莉子主演による映画のロケが行われた。奥津の風物が多く著名人に語られるなど、奥津温泉の評価が高められたのであった。
(野口冬人・旅行作家)