山峡のいで湯 朝市楽しみ
肘折温泉郷は新庄の南西28キロ、出羽の霊峰月山の山すそにひろがり、最上川の上流銅山川の清流にのぞむ標高300メートルの地にある。肘折、黄金(こがね)、石抱(いしだき)温泉からなり、広大な広葉樹林帯に囲まれ「山峡のいで湯」という言葉がぴったりの閑静な温泉郷である。
月山は出羽三山のひとつで山岳修験の聖地として信仰を集め、ここは江戸時代から月山登山口の温泉地として栄えたといわれ、現在も夏は登山者で賑(にぎ)わう。
凝灰岩の岩場がそそり立つ地蔵倉は、開湯伝説である地蔵権現が住んでいた洞穴といわれ、信仰の場となっている。
黄金温泉は、二酸化炭素泉で日帰り入浴施設「カルデラ温泉館」がある。この温泉水は飲用すると慢性消化器疾患に効果があるとされている。
四季折々に、取れたての旬の産物が並んだ午前5時からの朝市には、浴衣に下駄(げた)履きの客も多く、活気のある賑わいを見せている。また肘折こけしの工房の見学もできる。
公園では湯の湧(わ)き出る様子を間近で見ることができる。
泉質はナトリウム塩化物・炭酸水素塩泉で、温泉地名のように骨折後の回復期、筋・関節痛、飲泉で痛風、慢性消化器疾患に有効である。
斎藤茂吉に勧められてここを訪れた折口信夫が、温泉(二酸化炭素泉)がうまいと「山の湯雑記」に記しているという。
朝市では、栄養価の高い旬のものがあり、地蔵倉への歩行運動ができる上、週に1回温泉療養の相談ができるのはやはり湯治場ならではである。
(植田理彦・医学博士)