ワニ、ドラマ…元気になる湯
熱川という字を見ているだけで、熱いお湯の勢いが感じ取れる。そして熱川と聞いて、連想するのは、太田道灌(どうかん)、細腕繁盛記、バナナ・ワニ園である。
江戸城築城で有名な太田道灌は、狩りの途中で湯気のたつ川に猿が浸(つ)かって傷を癒やしているのを目撃して温泉を発見した開祖様。だから銅像がある。川を熱くした湯は、今も湯脈を掘った櫓(やぐら)から湯煙をダイナミックに吹き上げている。
細腕繁盛記は、昭和45年に大ヒットしたテレビドラマ。小姑(こじゅうと)のイジメに負けず、熱川の温泉宿を見事に大きくしていく加代さんに視聴者の熱い視線が注がれたものだ。逆境物ドラマの形式は、熱川の海と湯煙をバックにテレビに定着していったわけで、「銭の花は清らかで白い」というナレーションとともに忘れられない。花登筐(こばこ)氏のこの作品のモデルになった宿は、今もしっかり健在だとか。
熱川を訪れた人が、まず立ち寄るのが、世界各地から集めたワニが300頭以上もいるバナナ・ワニ園。バナナはともかく、ワニという発想がとんでいる。
そんなイメージを抱えて湯に浸かるせいか、落ち込んでいても元気になる。含芒硝(ぼうしょう)食塩泉、含重曹食塩泉、弱食塩泉とバラエティーに富んだ塩泉で、アルカリ性が強いせいか肌もツルツルと元気になる。立ち寄り温泉もたくさんあるのがうれしい。
公共の「高磯の湯」は、広い海が目の前に広がる開放的な湯で、つい入浴時間が長くなる。入浴によるカロリー消費指数は、0・03×体重×入浴時間だそうで、身も心も軽くなり熱くなる感じである。
(吉永みち子・ノンフィクション作家)