マツタケづくし
「今年の出来は格別良いみたいですね」
マツタケのシーズンをまえに、かしわや本店の女将(おかみ)・山内恵子さんはうれしそうだ。「信州の鎌倉」をキャッチフレーズに、塩田平の山際に点在する古寺めぐりコースが人気の温泉だが、秋はマツタケと決まっている。
というのも背に負う山々が赤松林で、昔からマツタケの名所として知られてきた。シーズンに入ると、今でも10軒ほどの「山小屋」が開かれ、マツタケ料理を食べさせる。
昔は「マツタケ狩り」もできたそうだが、収穫が減り、高級食材となった現在、さすがにそれは叶(かな)わず、収穫が多かった日などに「グラムいくら」という形で、お土産に売っている程度になってしまった。
9月13日前後から季節料理として特別に支度する旅館も多く、山内さんのところでも宿泊料プラス1万円でマツタケづくしを出している。「特に秋を楽しみに来湯するお客さまも多い」そうだ。
鎌倉時代からの湯歴を誇る温泉だが、最近は下水道の工事に伴い、道路が敷石畳に張り替えられ、旅館街もすっきりとした雰囲気をかもしている。
昭和初期の映画『愛染かつら』の舞台としての古いイメージから一変。最近は「真田幸村ゆかり」の外湯が池波正太郎ファンを集め、戦没画学生の作品を展示する美術館「無言館」目当ての客も多く、新たな文化の香りを漂わす温泉地になってきている。
(竹村節子・旅行作家)