「1000人風呂」体育館並み
山頂は早くも雪景色の八甲田大岳。その麓(ふもと)、といっても標高900メートルの高原に湧(わ)く一軒宿である。伝承によれば貞享元年(1684年)の発見といい、320年の歴史を刻む津軽地方きっての古湯。
何といっても「1000人風呂」と呼ばれる総ヒバ造りの大浴場が魅力だ。間口8間、奥行き10間、広さ80坪。湯気抜きのついた高い天井、高い位置に切られた窓など体育館なみの浴場だ。湯舟は5つあり5本の源泉からそれぞれに湯が引かれている。43度の4分6分の湯、41度の熱の湯、40度の冷の湯(2か所)、7本の湯滝が落ちる鹿の湯だ。
しかも今でも混浴。慣れない女性にとってはこれからの季節が絶好の入浴シーズン。つまり浴場内に立ちこめる湯気で視界が効かないから安心して入浴できるからだ。湯舟の中央が男女の境界線。これは紳士協定でしっかり守られている。
江戸時代からの湯治場で「三日ひと回り三めぐり十日」の滞在が基本。自炊も健在だ。館内には食材、生活用品の揃(そろ)う売店、健康や入浴相談のできる「療養相談室」もあって、看護婦さんが常駐。湯あたりした時などには心強い味方となっている。
雪の降り積むこれからのシーズンは湯治の最も盛んな季節。外は吹雪でも館内は別天地。2階の広間2つをぶち抜いて、なんとゲートボール場にしてあり、湯治にやって来た人たちが和気藹々(あいあい)でスティックを振る姿が見られる。柱や敷居は良い障害物で、ひごろ鍛えた腕の見せ所らしい。
(竹村節子・旅行作家)