「湯治村」 ひと冬過ごす人も
一面の雪景色の中に、もうもうとした湯煙が上がっている。雪が割れて、源泉のあふれる小池が顔を出し、その先に幾重にも棟を並べる宿があった。
雪を分けるように登ってきた車の道は、後生掛温泉までで、この先へは雪が消えて春が帰ってくるまで通行止めだ。
八幡平温泉郷の一つである後生掛温泉。頭部は外へ出して体だけを蒸す箱蒸し風呂や、温泉と地熱で床暖房が自然に出来たオンドル宿舎などが人気の湯治場として、古くから知られてきた秋田の名湯でもある。
一軒宿であるが、旅館部2棟と、オンドル宿舎の自炊部が5棟あって、温泉街を形成している。野菜、生鮮品、漬物、干物など、あらゆる総菜用品から、土産物までそろう大きな売店もあって、湯治滞在する人たちの食ぜんは思いのままに整えられる。「湯治村」の名称で、この時期は深い雪に埋もれた湯治場だが、除雪がしっかりされ、冬季は休みなく営業している。実際湯治滞在する人の中には、ひと冬を過ごしてしまう人もいる。
「温泉保養館」は、高い天井の下に木造りの山荘風スタイルの浴室になっていて、大浴場をはじめ、泥湯、泡風呂、箱蒸し風呂などに、外には露天風呂も設けてある。酸性―単純硫黄泉の源泉95度は、適温に調節されて流しっぱなしになっている。ぜんそく、気管支カタル、糖尿病、肝臓病、リウマチ、痛風、自律神経失調症、婦人病、アトピーなど、あらゆる疾患に効果が高いとされている。
(野口冬人・旅行作家)