北投石に万病治癒願う
新緑が目にしみる八幡平の山ふところ。白々とした岩肌がむき出しになった広い谷、もうもうと立つ湯けむり。原生の緑を寄せ付けない荒々しい景色は、ここだけが別天地であることの証左でもある。
万病を癒やすと信じられ、今なお自浄作用を信じて訪う人々が後を絶たない。源泉はエメラルド色の熱泉が盛り上がる「大噴き」。98度の熱泉でPH1・1―1・2の強酸性泉だ。湧出(ゆうしゅつ)量は毎分9000リットル、ドラム缶45本分に当たる。
谷は地熱によって温まり、微弱な放射能を発する天然記念物・北投石を産する。訪泉者は入浴ばかりでなく「岩盤浴」を併用するのがここの特徴。地熱の高い岩盤上にゴザを敷いて横になり、温まりながらごく軽いラジウム浴をする。
専門医は認めていないが、様々な癌(がん)、糖尿病、リウマチ、脳梗塞(こうそく)、くも膜下出血による身体マヒの改善、アトピー性皮膚炎などなど、どちらかというと治療が難しい疾患に効果があると信じられ、口コミで全国から人々が集まる。
以前は湯治客向きの大型宿が1軒だけだった。数年先まで予約で埋まってしまうことから、平成11年には2キロほど下流に210室を擁する第三セクターの新玉川温泉を開設。引湯して歩行浴、浸頭浴を加えた大浴場もつくられた。
それでもまだ客室が足らない。北投石の生成成分が治癒効果の大きな原因といわれるが専門家の研究はまだ道半ば。将来的に人類のサナトリウムになり得る可能性を秘める奇湯であり、さらなる研究が望まれている。
(竹村節子・旅行作家)