美肌作りに雪の露天風呂
ぽってりとした綿帽子が樹木を覆っている。朝日が屋根の雪に映えて、目にまぶしいほどだ。連日降り続いた雪が上がったこの日の朝の温泉街は、すがすがしい冷気がほおをなで上げる。名所のバラ園も一面の雪に埋もれていた。シーズンになると、バラの花が赤やピンク、白と一面に彩るのであるが、今は宮沢賢治の碑の位置すらも分からない。
花巻温泉は、大正12年(1923年)、盛岡の財界のひとりである金田一国士によって、関西の宝塚に匹敵する一大遊園地を東北の地に開発したいという構想のもとに、台温泉から湯を引いて設置された。「東北の温泉リゾート」として大きく発展し、昭和36年には県立自然公園に指定されるなど、風光明媚(めいび)な温泉郷になっている。
宿は手前から木造和風の青葉館、鉄筋12階建てのホテル千秋閣、ホテル花巻、ホテル紅葉館と連なり、木立の茂る奥の静寂境には数寄屋造りの佳松園があって、花巻温泉株式会社の同一経営、各層の客筋にそれぞれ対応できるようになっている。
露天風呂の設けてあるホテル紅葉館の佐藤寿美支配人に湯の特色をうかがった。「アルカリ性単純温泉でして、ケガや火傷(やけど)、胃腸病、リウマチなどに昔から効果がいわれていますが、最近では美肌作用が高いと、ご婦人方に評判をいただいています」という。春のなごみの近い感じを受ける雪の露天風呂にじっくりと浸って、岩手の名湯を楽しんだ。
(野口冬人・旅行作家)