商店のぞいて歩く楽しみ
古くからの有名温泉で立派な宿がズラリそろっていたけれど、なんとも味気ない町だった。旅館は館内完結型を目指していた時代。たまに入った商店では住民優先で、旅行客は肩身の狭い思いをしたものである。バブルがはじけて、団体旅行が激減。宿も町の商店もやっと世の中を見る目が開いた……みたい。
町を貫く道路の北と南にトンネルが抜ける。南は永平寺への最短ルートだ。「通過型観光地になるのではないか」。皆はじめて心配になった。町並み整備を真剣に話しあった。結果、格子をはめた昔の商家風、新和風、民芸ムードなどに各店が改装。14軒の商店は「町角ギャラリー」として店舗を開放したのである。
おかげで財布と相談しなければ入れなかった山中塗や九谷焼の高級店も気軽にのぞけるようになったし、銘酒の試飲も酒屋のしゃれたカウンターで楽しめるようになって、町歩きが面白くなってきている。
行政も男子専用だった共同浴場・菊の湯と向かい合わせて女子専用菊の湯と、伝統芸能「山中節」を常時楽しめる山中座を昨秋完成させ、町のヘソとした。女子用菊の湯へはなんと1日3000人が押し掛けた日もあったとか。湯量は豊富、じゃんじゃん掛け流している。
松尾芭蕉ゆかりの旧跡や鶴仙渓遊歩道、山中塗のギャラリー、ろくろの里などの見所をめぐるのに便利なシャトルバス「お散歩号」を走らせ町歩きの便も図っている。お客は正直。面白ければ町を歩く。無愛想だった商店のおかみさんが客にお世辞の一つも言える町になってきた。
(竹村節子・旅行作家)